本当に好きな人に好きって気持ちを伝えきる方法なんて、多分どこにもない気がする。
 今ぼくは骨がみしみし音を立てているんじゃないかっていうぐらい、ダークに強く抱きしめられている。勿論こんなに強く抱きしめられたら苦しいけど、前に彼がぼくに打ち明けたことを思い出せば、これくらい強く抱きしめられるのも当然のことだろうなと、思えてしまう。
「ダーク」
 幼い子をあやすみたいに声をかけて、ダークの頭を撫でてやる。
「まだ、教えられないのか」
「……うん。やっぱり、だめ」
「どうしてだ。おれは、こんなにお前を……」
「ごめん」
「リンク……!」
 体に回されたダークの腕に、より一層力を込められた。痛い、けど、これでもう一つの選択肢を選ばなくてよくなるのなら、このくらい痛くてもぼくは別に構わない。
 ダークは、キス以上のことを求めている。しかしキス以上のことを求めているのに、キス以上のことを何も知らない。だから、ぼくに教えてくれと迫るのだ。
 キス以上の愛情表現というと、もちろんぼくの知る限りではひとつしかない。確かに恋仲であればいつかそうすることなんて別にどこも不思議じゃないだろう。ただ、ぼくは自分達にはまだ早いって思っているから、教えていないだけだ。ただ、心の準備が出来ていないだけなのかもしれない。
 ダークはキス以上のことを求めている、と言えばちょっと語弊があるかもしれないけれど、ダークは別に、自分の情欲のためにそれを求めているわけじゃない。
 ぼくはダークに好かれている。ぼくもダークが好きだから、ダークの気持ちはよくわかってる。けれどダークはぼくが好きだという気持ちを全て伝えきりたいと思っているらしい。
 そしてそれを全て伝えきるためには、キスや抱きしめるだけでは足りないみたいだ。だからダークは、キスよりも上のことを求めている。つまりダークにとって、好きという気持ちを伝えられるのなら、別にぼくが思っていることじゃなくてもいいんだろう。ただ、その代わりになりそうなことが、今の自分には何も思いつかないけれど。
 最初に言ったとおり、ぼくは本当に好きな人に好きって気持ちを全て伝えきる方法なんて、この世界の何処にもないと思っている。
 ぼくがキス以上のことを教えたとしても、ダークはそれでも足りなくて、さらに上のことを求めてくるだろう。それ以上は、流石にもうない。だから教えてもあんまり意味はないんじゃないかと思えてきて、それもダークに教えていない理由になっている。
 ……これじゃ言い訳がましいかな。もしかしたら、ただ単に今ぼくを抱きしめている人とそういう関係になってしまうことが、怖いだけなのかもしれない。
「いつに、なるんだ?」
「それはわからないけど、きっと教えるから。それまで我慢して」
 がり、と背中に爪を立てられた。それは怒りの感情からきているものなのか、あるいは悔しさの感情からきているものなのか、わからない。けど、ダークは辛いんだろう。
 これはぼくのわがまま。でも、ここで引き下がりたくはない。
 ダークが腕の力を緩めて、ぼくを解放してくれた。凄く真剣な顔をしているダークと見つめ会う形になる。そしてそのまま、ダークがぼくの唇に自分の唇を押し当てる。
 舌と舌を絡めるようなキスは、ダークにはまだ教えていない。だからぼくとダークのキスは、本当に唇と唇を重ねるだけのものだ。そんなキスを、息が苦しくなるまで続ける。
 唇を離されて、ダークはさっきと同じ、凄く真剣な表情でぼくを見ている。
 そして、酷く辛そうにこんな言葉を吐き出す。
「だめだ」

「やっぱり、こんなのじゃ足りない」
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。