「ダーク、目を閉じて」
「……?」
 本を読みながら一息付いていると、いきなりリンクが本と顔の間に割り込んできて、そう言った。
 いきなり目を閉じろと言われても、どうして自分がそんなことをしなければいけないのか、そもそも何をする気なのか全く想像できないので、かくんと首を傾げる。
 リンクはリンクで今ダークが何も言わなくても説明を求めていることぐらい気付いているはずなのに、何も言わずに困ったように笑って、
「いいから。ほら」
 そう言ってリンクはぐい、とダークの顔を自分の方に向ける。
 首を傾げることも出来ないので、何をするのかと思考を巡らせた結果やっぱりわからず。諦めてぎゅっと目を閉じる。
「そんなにきつく閉じなくてもいいんだよ」
 目を閉じているのでどんな風に笑っているのか間ではよくわからないが、くすくすという笑い声が聞こえる。
「ほら、もっと力を抜いて」
 ぱちぱちと瞬きをした後、言われたとおりにさっきよりも力を抜いて目を閉じる。
 何をしてくるんだろうと目を閉じたまま考えていると、かさかさした何かが唇に当たった。
 驚いて目を開けると、目の前にリンクの顔があって、その時やっとリンクが自分の唇をダークの唇にあてていたことに気が付いた。
 唇と唇を合わせて一体何の意味があるのかと考えていると、リンクが唇を離してきて、また困ったように笑って、
「キスの時は目を開けたらいけないんだよ?」
「キス?」
「そう。唇をあわせたり、唇を相手の額や頬にくっつけるのは、恋人同士の愛情表現なんだ」
 そう言って、リンクが今度は額にキスをしてくる。
 確かにそんな感じのことを本で読んだことがある。でも、だからなんなのだろうか。
 唇と唇を合わせるという愛情表現をしたからといって何かあるわけでもないから、本で読んだみたいに照れて頭が火照ってよく働かないとか、緊張して混乱するとか、普通だったらそうなるらしい場面でも、キスという愛情表現に何の意味があるのか純粋に分からずに黙りこくる。ただダークの唇にかさかさしたリンクの唇の感覚が残っているだけだ。
 ダークが黙っているのは照れているわけでも混乱しているわけでもないことにリンクも気が付いたのか、少し残念そうな顔をしている。
「……ダークもちょっとは喜んでくれたっていいじゃないか」
「どうして唇を合わせることが愛情表現になるんだ?」
「それは……なんでなんだろうなぁ」
 唇を合わせることが愛情表現になる理由はリンクにも分からないらしい。
 リンクに連れ出されたあたりは何をやってもわからないことばかりで、いつもリンクに質問責めだったが、リンクにもわからないことは沢山あるから、リンクにもわからないことを聞こうとしてはいけないと最近ダークも学んだので、ふるふると首を横に振って、わからないなら構わないという意志を示した。
 リンクもごめんね、と謝って、ダークの頭を撫でる。
「こっちの方がいい」
「?」
 わけがわからないといった風な顔をしているリンクの手首をつかんで、ダークの目の前に持ってこさせる。
 そして手首をつかんでいないもう片方の手と、目の前に持ってこさせたリンクの手を合わせる。
「おれはこっちの方がいい。お前に触れている面積がキスよりも、こっちの方が大きいから」
 自分としてはなんでもないことを言ったつもりだったのに、キスをしてきた方のリンクが赤くなって俯いている。
「君って人は……もう」
 そんなに照れさせるようなことを自分は言ってしまったのだろうか。
 ダークが首を傾げるとリンクは、いや、いいんだと呟いて、
「じゃあ、キスよりも、君は抱きしめたり抱きしめられる方が好きなんだね」
 ああ。とすぐに頷いて返すと、リンクがこれまた、でもちょっと嬉しそうに、真っ赤な顔を隠そうとしてか横を向く。
「どうして、そんなに照れてるんだ?」
 そう問いかけてみたが、リンクは相変わらずの赤い顔で肩をすくめて笑ってみせただけだった。自分のことなのにわからないのだろうか。
「わからないのか?」
「わかるよ。でも、内緒」
 リンクは相変わらず真っ赤な顔で肩をすくめ笑っている。
 どうしてわかるのに自分に教えてくれないのだろうか。自分の言ったことは、こんなにリンクを真っ赤にさせるくらいのことだったのか。勿論自分にはそんなつもりなどなかったのだけれど。
「言えないことか?」
「そうだね。言いづらいかもしれない。ちょっと恥ずかしいしさ」
 リンクが目を閉じて、ずっと合わせていた手をぎゅっと握る。
「ありがとう」
 そう言って、何故か黙りこくってしまった。
 どうすべきか少しの間考え込んだ後ダークは、手をぎゅっと握られたまま、顔を近づけて、リンクにキスをする。
 しばらく唇をくっつけていた後、唇を離すと、リンクはぽかんとした顔でダークを見ている。
「ど、どうして? 君は、キスよりも……」
「どうしてキスが愛情表現になるのかわからないから、試してみた。でも……やっぱり、おれにはわからない」
 見ればリンクの顔がさらに赤くなっている。でも口に手を当てたまま、嬉しそうにはにかんでいた。それを見て胸の奥が浮いたような気持ちになって、ちょっとだけ嬉しくなる。
「やっぱり、少しだけわかるかもしれない」
「ん?」
「キスが愛情表現になる意味が、少しだけ分かるかもしれないんだ」
「本当に?」
「ああ。お前がこうして喜んでくれるなら、キスの意味もあるのかもしれない。お前は嬉しいんだろう?」
 穏やかに笑った後、リンクは頷いて、
「うん。ぼくは嬉しいよ。君が好きだからね」
 キスする前からずっと握りっぱなしだった手を、リンクがさらに強く握る。
 リンクの体温がより強く伝わってきて、より一層嬉しい気持ちになれた。



「でも、どうしてキスをするとお前は喜ぶんだ?」
「……そう言ってくると思ったよ」
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