「なんでおれたちなんだよ。他の奴らでも……」
 新しいメンバーを迎えに行ってほしい。とマスターハンドに頼まれてから、彼が17回目のため息と8回目の悪態を吐く。
「まあまあ、マスターハンドが急用で迎えに行けないから、代わりに僕らが呼ばれたわけだし……」
 そんな彼の悪態に対して、自分もまた、8回目の言い訳をマスターハンドの代わりに代弁して彼を宥める。
「……あいつ、『ゲットされたくないから』って小声で言ってたぞ」
「ゲット? どういう意味だろう……」
「……さぁな」
 頼まれたから仕方がない。とは言っても、やはりリンクも気になる。
 普通、新しいメンバーが来る場合マスターハンドが直々に出身世界に迎えに行くのだが、今回は部下に迎えに行かせ、自分から赴くことは一切なかったそうだ。主催者でありながら一度も姿を見せないというのは正直いかがなものだろうか。
 急用で迎えにいけないという割には、ここ最近目立った出来事も起きていない。何かあるのだろうか。
 前のようにクレイジーハンドに実験器具を大破された時は、不貞腐れたあまり乱闘の予定を組むことを投げ捨ててしまい、自分達は結局2週間ほど暇を持て余していたくらいだったから、何かあれば必ず自分達の耳に届くはずなのに。
 広い玄関の扉を開けて、常に開放中の門へと向かう。マスターハンドはもう来ていると言っていたはずなのに、門にはそれらしき人の姿どころか、誰の姿も見えない。
「誰も居ないね……」
「……勝手に寮内に入ってたりしてな。人じゃないなら在り得るぞ」
「……かもね」
 辺りを何度見回しても、やはりそれらしき姿は見えない。リンクは半ば諦めたように息をついて、
「やっぱり居ないね……。寮に入っちゃったかもしれないから、寮内の方を探してみる?」
「……そうだな」
 寮はかなり広いが、他の人達にも協力してもらえばきっと平気だろう。二人で踵を返し、寮へと戻ろうとする。

「ふたごポケモン、ゲットだぜー!」

 聞き覚えの無い声と同時に、何か拳ほど大きさの、石のようなものが全く警戒していなかったリンクの後頭部に直撃した。凄まじい後頭部の痛みにリンクはうめき声を上げて蹲る。
「モンスターボール……?」
 予想だにしなかった奇襲の痛みに涙目になっているリンクの代わりに、ダークがリンクの足元に落ちている、先程何処からか飛んで来てリンクの後頭部に直撃した物体、モンスターボールを拾い上げる。
「……なんで、モンスターボールが?」
 リンクの問いに、ダークはモンスターボールを近くの地面に投げて、
「さぁな。……中身は入っていないみたいだが」
「……?」

「ふたごポケモン、ゲットだぜー!」

 リンクが相変わらず痛みに蹲りながらも怪訝そうな顔をしていると、また先程の聞き覚えの無い声と同時に、今度はダーク目掛けてモンスターボールが飛んで来た。
 しかし先程とは違うので、ダークは剣でモンスターボールを弾いて地面に叩き落とす。
「……そこだなっ!」
 素早くダークは剣を鞘に収めて、今度は弓矢を取り出して近くの、声がした木目掛けて矢を放つ。
 どさ、と大きな音を立てて、矢を放った木から赤い服に赤い帽子の少年が落ちてきた。これがマスターハンドの言っていた新しいメンバーなのだろう。
 少年は痛みに顔を顰めながらもすぐに体を起こして、ダークを敵意剥き出しの目で睨み、腰につけたモンスターボールを投げて、
「痛っ……。くそ、絶対にゲットしてやる! 行け、リザードン!」
 投げたモンスターボールから赤い、ドラゴンのような生き物が出てくる。見たことは無いが、モンスターボールから出て来ているということからポケモンなのだろうか。
 リザードンと呼ばれたポケモンは、ダークに牙を剥いて火を吐き、威嚇している。ダークもダークで既に剣を抜き、くるくるとリザードンを挑発するように剣を回して、いつでも斬りかかれるような状態だった。
 まずい。と直感的にリンクは悟る。ステージ以外での戦いは禁止されているのに。このままでは二人はマスターハンドに怒られるだけでは済まないだろうし、ここにいる自分も危ないだろう。
「ちょ……ちょっと待って!」
 慌ててリンクはダークとリザードンの間に立って止める。ダークは剣をくるくる回してリザードンを挑発するのを止め、火を噴いて威嚇していたリザードンは火を噴くのを止める。
「なんだよ、ポケモンのくせに止めるのか!」
 しかし、少年は明らかに不満そうな顔でリンクに反抗する。リンクはリザードンの後ろに立っている少年の方へ向かい、宥めるように両手を出して、
「あのね……ぼくらはポケモンじゃないんだ。耳は長いけど、ちゃんとした人間だよ? ぼくらは君を寮に案内しにきたんだ。戦うつもりじゃない。わかってくれる?」
「じゃあ、なんで黒い奴とそっくりなんだ?」
「それは……話すと長くなるんだけれど、ぼくらは双子みたいなものなんだ。ね? 早くポケモンを戻して、寮内に入ろう? 紹介したいメンバーは沢山居るから」
 リンクの言葉に少年はやっと、少し不満そうな感じではありつつも納得してくれたのか、リンクの要求を受け入れてリザードンをモンスターボールに戻す。ダークもそれと同時に、剣を鞘に戻してくれた。
「……ありがとう。ぼくの名前はリンク。ぼくとそっくりのこの人はダーク。よろしく」
 そう言って、少年に握手を求めて手を差し出す。少年は自分と握手をしてくれた。
 同じようにダークにも目で少年と握手をするように訴え、同じようにダークも少年に手を差し出してくれたが、少年は握手を拒み、明らかに敵意を剥き出しにした顔でダークを睨んで、
「あと少しで矢が当たるところだったんだからな! 当たったらどうするんだよ!」
「わざと外した。それくらい気付けないのか」
 少年の罵声にもダークは無愛想面のままあっさりと受け流す。それがますます少年の気に障ったのか。少年のダークに対する敵意がより高まったのがリンクにもよく分かる。
 敵意を剥きだしにした目でダークを睨む少年と、それを涼しい顔で受け流すダーク。リンクにとっては、先程の危うく規則違反になりかけた時よりも間に入り難い雰囲気だった。
「と、とりあえず……寮に入ろう?」
 リンクが宥めるようにそう言うと、二人は黙ったまま寮のほうへと向かっていった。



 寮に入れば大人しくなるという考えは、どうやら甘かったようだ。
少年の目の前を通り過ぎる一人一人、特にカービィやフォックスなどの人の姿ではないメンバーがとにかく珍しいらしく、見れば真っ先にモンスターボールを取り出してリンク達の時と同じようにモンスターボールを投げる。
 リンクはそれを制止するのに必死で、ダークも手伝おうとするが少しでもダークが近づけば少年は余程ダークが気に入らないのか、近づく度罵声を浴びせる。
 モンスターボールも身に着けているもの・投げたものは没収したのだが、それでも一体どこにしまっていたのか、ポケットやリュック、色んなところからボールをまた出してくる。
 確かにリンクとダークにとっても見知らぬメンバー達は珍しいものだった。
 山育ちだったリンクと、魔物として生まれて半ば幽閉状態で育ったダークにとっては、特にフォックスやスネークの銃器は見たことも聞いたことも無い未知のもので、使い方がわからず、引き金に手をかけた状態で銃口の中を覗こうとして慌てて止められたのはいい思い出だった。
 しかしそれと今回では明らかにレベルが違う。自分達の近くを通った人に手当たり次第ボールを投げているようでは、何人に被害が出ることだろう。
 それに激高して襲い掛かってくるメンバーもいるかもしれない。そうなる前にどうにかならないものだろうか。
「あ、リンクさん! その人が新しいメンバーですか?」
 廊下の角からピットが出て来て、笑顔で自分に向けて手を振っている。ピットは人の姿ではあるものの、天使であるぶん背中の羽が随分と目立つ。勿論それを目の前の少年が逃すわけがないだろう。まずいと直感的にリンクは悟る。
「ピット、逃げて!」
「……へ?」
 ピットに向けて叫んだはいいものの、何故ここで逃げなくてはならないのか分からないようで、唖然としたままぽかんと立ち尽くしている。その隙に、隣の少年はポケットからモンスターボールを取り出し、ピット目掛けて投げようとする。
「てんしポケモン、ゲットだ……ぐえっ」
 自分達も、そして他の人にも言ったお決まりの台詞が途中で途切れて、少年は床に倒れこんだ。横を見れば、ダークが鞘に収めたままの剣を涼しい顔でくるくると回している。
 恐らく、ダークが峰打ちで少年を気絶させたのだろうか。確かに随分と手のかかる少年ではあるが、何もそこまでしなくてもいいのではないのだろうか。
「……ダーク?」
「もうめんどくさい、それにこれ以上被害が増えても困る。峰打ちで気絶させたほうが早いだろ。……最初からこうすればよかったな。さっさと連れてくぞ」
 そう言ってダークはひょい。と少年を抱え、マスターハンドの部屋へ少年を運んでいく。
「何もいきなりそんなこと……それに、ぼくらこの子の名前聞いてないよ……」
 リンクの言葉にダークは一瞬立ち止まり、少し考え込んだ後に、
「……そういえばそうだったな。でも、後で聞けばいいだろ」
 淡々とした声でそう言って、またマスターハンドの部屋へ足を進める。リンクは少し猪突猛進なダークに呆れたような溜め息を吐いて、少年を抱えたダークの後ろを歩いていった。
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