「いい? 二人がドアを開けたらクラッカーを引くんだよ」
 子供たちにクラッカーを渡しながら、扉が開く前にクラッカーの紐を引くことのないよう、リンクは一人一人に念入りに釘を刺していく。
 ネスやリュカたちは分かってくれたものの、ピカチュウやプリンにはその言葉はいまいちよく伝わらなかったらしく、興味津々な表情でクラッカーを眺めている。
「駄目だよ。今クラッカーを引いたら気付かれちゃうからね。扉が開いたら引くんだよ」
 二匹にそっと念を押して、リンクはポポとナナにクラッカーを手渡す。
 今日はアイクとマルスの誕生日だ。
 ダークと考えようによっては双子のような存在であるリンクが言うのもなんだが、二人して同じ日に生まれたというのはすごい偶然だと思う。実際、本人たちもそのようなことを口にしていた。
 そして、同時に二人のメンバーの誕生日を祝える日を皆が見過ごすわけがない。だからこうして予め朝早くから準備をし、二人の部屋の前で待ち伏せをしているのだ。
「……おい。もう着替え終えたみたいだぞ」
 ずっと扉に長い耳を押し付けて、中の様子を伺っていたダークが、そう知らせてくれた。
 予想外に早かったので、リンクは一気に青ざめて、ここに居る全員がクラッカーを持っているか確認した。
 クラッカーを持っていない人は誰も居なかった。――が、人数が足りない。もっと明確に言うと、トゥーンの姿が何処にも見えなかった。
 何処へ行ったのかとリンクが焦る中で、ダークが涼しい顔でポケットからクラッカーを取り出す。トゥーンに渡したのと同じ色だった。
「あいつらならトイレに行った」
「なんで止めないんだ! そもそもどうしてぼくに何も言わないんだよ!」
「『怒られるから言わないで』だと」
 リンクはため息を吐き出せるだけ吐き出して肩を落とす。しかし呆れているような時間も無いので、ため息をついてすぐに、
「じゃあダーク、扉を開けないようにして!」
「……ん」
 適当に相槌を打って、ダークは二人の部屋のドアノブを掴んだ。



「あれ?」
 食堂に向かおうと、扉を開けようとしたマルスの表情が曇る。
 首を傾げて、マルスはもう一度扉を開けようとドアノブを回そうとする。どれだけ動かそうとしてもドアノブがびくとも動かず、扉が開かない。右手にめいっぱい力をこめて、力任せに開けようとしても、これまた開かない。
「……どうした?」
 必死にドアを開けようとしているが、開こうとしないドアに苦戦しているマルスを見かねたアイクが、何事かと覗き込んでくる。
「ドアが開かない……」
「本当か?」
 アイクがドアノブに手をかけ、あけようとするが相変わらずドアノブはぴくりとも動かない。
 流石のアイクも怪訝に思ったのか、力をこめてドアノブを回そうとした。さっきはぴくりともしなかったのに少しだけドアノブが動いた。
「外から無理矢理閉じ込めているのか……?」
「誰かの悪戯かな?」
「さあな。……よし」
 すぅ。とアイクが深く深く息を吸って、両手をドアノブにかけ、全身の力を込めてドアノブを回そうとする。アイクの方が、僅かに力が上だったのだろうか、ドアノブが一瞬だけ開いた。
 ドアノブが一瞬だけ開いたとき、扉の向こうに赤い帽子と真っ黒の服が見えた。赤い帽子を被っているのはメンバーの中に三人(と一匹)なので誰なのかわからなかったが、真っ黒の服をいつも身に纏っているのは一人しか居ない。ダークだ。
「……ダーク?」
 ダークまで子供たちの悪戯に加担しているとは。
 確かにしっかり者のリンクとは違い、あまり物事を考えず行動するところがあるから、そこを子供達に利用されて悪戯に加担していることも十分考えられる。
「ふんっ!」
 その隣ではアイクが中々開かない扉にとうとう痺れを切らしたのか、片足を壁に付き、全身の力を込めてドアを開けようとしている。ここまで来ると外に出たいというわけではなく、ただ単に開かない扉にむきになっているだけのような気がしてきた。
 というより、ダークが扉の向こうで自分たちが廊下に出る邪魔をしているので、そのダークと力比べをしている。と言っても良いか。
「あ、アイク……扉が壊れるよ」
「知らん」
 扉が壊れてしまう前にすっかりむきになっているアイクをなんとかしようと、手を前に出して宥めようとする。しかしマルスの言葉も受け入れてはくれず、開かない扉を開けようと必死になっていた。



「ダーク、扉が壊れる!」
 その扉の向こうではこれまたダークが、アイクとの力比べにむきになっている最中だった。
 ダークもまた壁に足をついて全身の力を込め、扉を開けまいとしている。こちらのほうが若干優勢だが、それもいつまでもつか。というより扉を開けさせないようにするだけなのに、どうして力比べに発展しているのか。
「扉を開けないようにしろっていったのはお前だろ」
「力比べをしろとまでは言ってない!」
 ダークは相変わらず扉を開けさせないとしたままの状態で、少し考え込んで、
「……まだトゥーンが戻ってきてないだろ」
 そうだ。トゥーンがまだ戻ってきていないのだ。確かトイレに行っていると言っていたが、もう戻ってきてもいいはず。
 焦って辺りを見回すと、ぽてぽてとこちらに歩いてきているトゥーンの姿があった。
「トゥーン!」
 あくまでも小声で怒鳴りつけると、トゥーンはその場で固まって、
「な、なにっ!? ちゃんとトイレ出てから手洗ったよ!」
「そういうことじゃない! なんで勝手にトイレに行っちゃうんだ!」
 おかげでこっちは大変だったんだ。とこれまた小声で怒鳴りつけ、トゥーンに先程渡したクラッカーを投げ渡す。他の子供たちにも声をかけて、何時ドアが開いてもいいようにした。
「ダーク、扉を開けて」
「嫌だ」
「嫌だ……?」
「なんだかこのまま手を離すのは嫌だ。気に食わない」
「気に食わないってそんな……力比べじゃないんだから……」
「……力比べじゃないのか?」
「違う! 兎に角扉を開けるんだ!」
 リンクがそう叫んだ直後、ダークが行き成りドアノブにかける手を離した。ほとんどそれと同時にリンク達はクラッカーを引く。勢いのいい音と同時に何かまた大きな音がしたが、その音の正体まではわからなかった。
「お誕生日おめでとう!」
 予定ではそう叫んで、扉の先にはクラッカーの大量のリボンの洗礼を受けた二人が居るはずだった。……あくまでもリンクの予定では。
「あれ……アイクは……?」
 しかし扉の向こうに居たのは、一人で大量の火薬くさいリボンを被っているマルスのみで、アイクの姿はどこにも居なかった。アイクはついさっきまでダークと扉の引っ張り合いという力比べをしていたはずだったのに。姿が何処にも見えない。
 ダーク以外の廊下に居た全員がきょとんとした顔をしているそんな中、マルスは相変わらず火薬くさいリボンを頭のうえから被ったまま、自分の後ろを指差す。
 そこには、仰向けにのびていたアイクの姿があった。なんでそんな場所でのびているのか、その理由は冷静に考えたらすぐにわかった。
 先程ダークはドアノブを握る手をいきなり離した。その向こう側からはアイクが全身の力を込めて扉を引っ張っていたのだ。そんな状態で行き成り手を離されればバランスを崩すだろう。
 さっき、クラッカーの音と同時になにか大きな音がしたが、それはダークのせいでバランスを崩したアイクが転ぶ音だったのだ。すぐにリンクはアイクの元へ駆け寄って、
「ご……ごめん! まさかこんなことになるとは……」
「それはいいんだけど、さっきからアイクがぴくりとも動かないんだけど……」
「おれの勝ちだな」
「だから力比べじゃない!」
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