「よいしょ、っと。……マルス! これを運ぶのを、ちょっと手伝って欲しいんだ」
「わかった、これを工具箱の近くに運んでおけばいいんだね」
 そう言って瓦礫の山の中から、シュルクが指差した大きな鉄の板を取り、彼の工具箱の近くに運ぶ。少し錆びついたそれは思った以上に大きく、重たいものだった。
 重たい上に大きな鉄の板は、一人で運ぶのには力が居る。アイクほど力があるならこれくらい何ともないのかもしれないが、僕には少々きつい。
 だが僕にとってはがらくたにしか見えない鉄の板でも、シュルクにとってこれは宝物にも等しいのだ。大切に扱わなくてはいけない。このガラクタから今度はどんなに凄いものを作ってくれるのか、それが本当に楽しみで仕方なく、その為なら僕だってこのくらい、どうということはない。
 以前アイクたちが来た時のように、この世界がマスターハンドの力で大きく変わった時、また新しい人がこの世界にやってきた。今瓦礫の山の上で宝探しをしている僕と同い年の少年、シュルクもその一人だ。
 アイクがこの世界にやってきた時も、ロイが僕と一緒にこの世界にやってきた時もそうだったが、僕と同じように剣を使って戦う人間がこの世界に来てくれるのは、やはり嬉しい。
 そして僕が初めてこの世界に来た頃、わからないことばかりで戸惑ってばかりだった僕が、リンクによくしてもらった時の様に、わからないことばかりで戸惑うシュルクの助けになりたいと、この世界にシュルクがやってきたその日に僕から声をかけて以来、僕達はそれなりに仲良くやっているつもりだ。
 聞けばシュルクは、二柱の神の骸の上に広がる世界に住んでいたらしい。それを初めて聞いた時僕は、その世界では二柱の神の骸がそのまま大陸になったという伝承があり、シュルクはそれを信じているのだろうと思った。
 しかしどうやらそうではないらしく、無限に広がる海の上で、刺し違えた二柱の巨大な神の骸。そしてその神の背中に広がる海や腰に広がる原生林、足にある広大な平原などがあり、また人間は各地にコロニーを作り、そこで生活しているらしい。
 横に広がる世界ではなく、縦に広がる世界。それはあまりにも不可思議なもので説明を受けた僕も、正直シュルクの世界がどのようなところなのか、上手く想像できない。シュルクも自分の世界がとても変わっているために、どう説明したらいいのかわからないようだった。
 でもいつかマスターハンドの許しさえ貰えれば、シュルクの世界に行って、その神の背中に広がる海や腰に広がる原生林を、僕もこの目で見てみたいと思う。
「ごめんねマルス、いつも手伝わせちゃって」
「いいんだ。見ているだけで何もしないって言うのも君に悪いから、これくらいはさせて欲しい」
「ありがとう。マルスが居ると作業が捗って、本当に助かってるよ」
 顔と手をオイルで黒く汚しながら、腕に沢山のガラクタを抱えたシュルクが、足を踏み外さないよう慎重に瓦礫の山から下りてきて、工具箱の近くに座り込む。
「まさかこの世界にも七一式機神兵の光学式パーツがあるなんて思わなかったよ! こんなに綺麗な状態のパーツ、僕の世界でもなかなか見つからないのに! それにさっきマルスが持ってきてくれた金属板も、僕が居た世界のどの金属とも違うんだ。一体これはなんだろう、錫に似ている気がするんだけど、それにしては酸化がちょっと……」
 シュルクはどうやら、機械弄りが好きなようだ。それについては本人も剣を振るって戦うよりも、出来ることならずっと機械弄りをしていたいと口にしていたのを覚えている。
 実際にこの世界に来てからは、フォックスのアーウィンやブラスター、サムスのパラライザーやロックマンのメタルブレードなど、とにかく他のメンバーの持つ機械に興味を示していたし、暇さえあれば屋敷の物置で瓦礫を漁り、それを元に不思議なものを色々と作っている。
 一昨日はフォックスのアーウィンのメンテナンスを手伝っていたし、ちょっと前には以前の仲間が使っていたという盾のような武器を作っていた。それ以外にも一週間ほど前に屋敷の照明が壊れてしまった時には、マスターハンドがやってくる前にたった一人で全て修理してくれた。
「まぁ、これを調べるのは後でいいや。まずはこの六九式の装甲を改造して……ええと、スパナはどこに」
「これかい?」
 近くにあった工具箱からシュルクがスパナと呼ぶ工具を取り、手渡す。
「うん、ありがとう。この辺りに少し傷がついているだけで装甲自体の損傷はかなり少ないから、あれと、前に見つけたあのパーツを使って……」
 独り言を口にしながら、機械を弄るシュルクの瞳は、確かにステージの上で戦っている時よりも輝いている。やはり、機械が心の底から好きなのだろう。
 恥ずかしい話ではあるが、僕が元居た紋章の世界はシュルクが居た世界よりも文明が大分遅れているらしい。
 それゆえシュルクが宝の山だと言う瓦礫の山も、何に使われていたものなのか、まだ何に使えるのか、そもそもこれらがどういう物体なのかさえ、僕にはわからない。その瓦礫からシュルクが組み立てるものたちも、僕にとっては何が何だかわからないものがほとんどだ。
 ただ、それでも機械を弄るシュルクの手伝いがしたいと、部品運びの手伝いや、工具の名前を一通り覚えてシュルクが必要な時にいつでも渡してあげられるようにはしている。
「あれ? ここのパーツが一つ抜けてる。でも確か一昨日予備のパーツを見つけたはずだから……」
 床に座り込んでいたシュルクが立ち上がり、近くにあった木箱を漁る。確かあれは、瓦礫の山の中からシュルクが使えると思ったものを一先ず入れておく場所だったはずだ。
「僕も探すのを手伝おうか?」
「あ、いやいいんだ。……それよりさ、マルス」
「どうしたの?」
「何か作ってほしいものとか、ない?」
「……どうして?」
 木箱を漁るシュルクの手が止まり、僕の方を向く。
「うーん……なんというか、いつもいつもマルスに手伝ってもらって申し訳ないから……何かがしたいなって思って」
「申し訳ないって……そんなことはないよ。君の姿を見て、それを手伝えるだけで僕は楽しい」
 シュルクが好きな機械のことがよくわからなくても、機械を楽しそうに弄るシュルクの姿は見てて僕も楽しくなれるから好きだ。
 出来上がったものがどんな機械かわからなくても、シュルクが次はどんな不思議な機械を作ってくれるのか、想像するだけでとてもわくわくする。
「僕は君の世界より文明の遅れた世界に居たから、機械のことはほとんどわからないんだ。でも僕は君が次はどんなに凄くて不思議なものを作ってくれるのか。そう考えるだけでとてもわくわくする。だから君は、自分の能力をもっと誇りに思っていいよ」
 自分には魔導の才は無く、身体能力にもそれほど自信はないから、ここまで戦ってこれたのもほぼモナドの力ありきで、モナドが無ければこの世界に来ることも出来なかっただろうと、以前シュルクは言っていた。
 だが僕からすれば、瓦礫の山からこうして不思議なものを沢山生み出すシュルクの手は、まさに魔法の手だ。きっと今作っているものも、とても素晴らしいものに違いない。
「じゃあ、腕時計って知ってる?」
「時計は知っているけれど、そこまでは……どういうものなんだい?」
「腕輪みたいに、腕に巻いて付けることのできる時計だよ。それがあれば、どこに居ても時間が確認できるんだ」
 そう言って、服の袖を少し捲ったシュルクが自分の手首を指差す。そこには中央部分に小さなプレートのついた腕輪があった。
 そういえば、スネークさんもあれと似たような腕輪を身に着けていて、時折それを眺めていることがあった。付けていた腕輪がどんなものなのか、ちゃんと見せてもらったことはないのだが、もしかしたらそれがシュルクの言う腕時計だったのかもしれない。
「……ほんとうに?」
「本当だよ! いつも僕はマルスに手伝ってもらってばかりなんだ。僕も、マルスに何かしてあげたい」
「そうじゃなくて……そんなに凄いものが、君には作れるの?」
 僕の世界の時計と言うと、教会や城の大広間にある大きな時計というイメージしかない。とても大きいもので、一時間おきに鐘の音が鳴る。人々はその鐘の音を頼りに生活をする。逆に言えば、鐘の音が無ければ、人々の生活時間はばらばらになってしまう。
 だがもしも腕に付けられるほど小さな時計があり、皆がそれを身に着けることが出来たら。そうすれば、人々の暮らしはどれだけ便利になるだろう。
「もちろんだよ! 一週間くらい待ってほしいんだ、そうしたらきっと作れるはず」
 シュルクは、それをたった一週間で作れると言っている。もしも僕の世界にあれば暮らしを大きく変えられるようなすごい機械を、たった一週間で。
「……い」
「え?」
「すごい、そんなものを一人で作れるなんて! やっぱり君は本当にすごいんだね!」
 思わずシュルクのオイルまみれの手を取り、喜びの声を上げる。
 シュルクは手を握られた状態のまま、しばらくぽかんとした表情をしていたが、僕に負けないくらいの笑顔を作って、
「じゃあ待ってて。一週間後までに絶対仕上げるから」
「うん、待ってるよ! 本当にありがとう!」
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。