むかしむかし、ある国に、ひとりの王子さまがいました。
王子さまはやさしい家族にかこまれ、大きなお城でくらしながら、よい王さまになるためのおべんきょうをずっとしていました。
しかしあるとき、わるい竜が王子さまの城をこわし、王子さまは国をうばわれてしまいました。
わずかな騎士といっしょにどうにか国をにげだした王子さまは、家族ともわかれてしまいました。
だいすきな家族が生きているのかどうかさえ、王子さまにはわかりません。
国をにげだしたその夜、かなしくてかなしくて、王子さまはぼろぼろなみだを流しました。
それでも、王子さまは星空にちかったのです。
いつかかならず、国をとりもどしてみせようと。
王子さまは、国をとりもどすための戦いをはじめました。
しかし王子さまの軍には、いっしょに国からにげた数人の騎士しかいません。
それでも王子さまはあきらめずに戦いつづけました。
そのあきらめない王子さまの姿にひきつけられるようにして、さまざまな兵士が、そして敵だった兵士までもが、王子さまのところにあつまってきました。
そうしてひとり、またひとりと、王子さまの軍に兵隊があつまってゆきます。
「もう、お二人ともずるいですよ! これじゃあ私だけ置いてけぼりにされたみたいじゃないですか!」
私だって英雄王のことを探していたんですから。そう言って、むくれたルキナがそっぽをむいてしまう。
一体どうしたものかと、僕が助けを求めるように隣に立つルフレの方をちらと見ると、本気で怒っているわけじゃないから気にしなくていいよ、とそっと耳打ちされる。
昨日の夜に僕とマルスとルフレの間にあんなことがあった、とルキナが知ってからというものの、ルキナはずっとこんな調子だ。
三人だけで解決させてしまうなんてずるい。私だって英雄王と一緒に星空を見たかった。そんなことを言って、ずっとむくれてばかりいる。言われてみればあれでは確かにルキナを仲間外れにしてしまったみたいで、何だかこちらとしても申し訳なくなってくる。
「ルキナ、それくらいにしてあげてくれないか」
「英雄王……」
僕がルキナの部屋に招かれた時から、ずっと椅子に座って小さな本を読んでいたマルスが、困ったように笑いながら顔を上げる。
「君にも心配をかけて本当にすまなかった。だが元はと言えば全て僕のせいだから、君さえよければ……二人だけは許してあげてほしいんだ」
「……わかり、ました」
「ありがとう、ルキナ」
穏やかに微笑んだマルスが、膝の上に置いたままの本を閉じた。どうやら先ほどからずっとマルスが読んでいたのは、子供向けの絵本だったようだ。
「マルス、その本は?」
「これかい? ルキナが見せてくれたんだ。彼女が僕と同じ服を身に纏う理由が、この本の中にあると」
その本の表紙絵を、とても愛おしそうにマルスが撫でる。
確かにそこに描かれた、青い服に青い髪の男の子の絵は、マルスとルキナに似ているような気がする。似ているも何も、その男の子はマルスを元にして描かれているはずなので、それが当たり前のはずなのだが。
「あれは私達の時代でよく読まれている、英雄王の伝説を描いた子供向けの絵本ですよ。私も幼い頃、お父様にあれを読んで頂きました。……あれから私も考えたのです。英雄王の御心を救うために、自分に何が出来るのか」
「そう考えた君がマルスに見せようと思ったのが、あの本ってこと?」
「ええ。幼い頃の私はあの本を読んで、英雄王のように、道に迷う誰かを導ける存在になりたいと思いました。それから数十年経ち、絶望の未来で必死に足掻く私はあの本を思い出し、英雄王のように……貴方のようになりたいと、貴方と同じ服を身に纏うようになりました」
ルキナが椅子に座ったマルスの前に跪いて、、マルスの手を取って、こう言った。
「英雄王、私達は貴方の国を守れませんでした。……ですが貴方という存在がいつまでも、人々の救いでいられるようにすることは出来るはずです。それが、貴方が守った未来に生き、貴方の血を引く私の務め。そう、思っています」
ルキナに手を握られたまま、何か物思いにふけるように、マルスがそっと目を閉じる。
その閉じられた目から涙が一粒零れるまで、それほど時間はかからなかった。
「……ルキナ」
膝の上の本をテーブルに置き、マルスもルキナに目線を合わせるように、椅子から立って床に膝をつく。
「ありがとう」
そのまま、マルスはルキナを優しく抱き寄せる。
いきなり抱き寄せられたことでルキナは少々驚いているようだったが、すぐに安心しきった表情に変わり、マルスの背中に手を回す。
その光景に、思わず笑みが零れる。隣に立つルフレの表情を見ると、ルフレもそれを見て微笑んでいるようだった。
「僕も頑張らないといけないね。僕がいつか星になるその時まで、自分に出来ることは全てやっておかないといけない。……君達の時代で輝く僕の星に、ふさわしい活躍を残せるように」
「お互い、頑張ろうね。ルキナ」
「……はい」
あつまった兵隊たちにより、やがて王子さまの軍は、とても大きな軍になりました。
そしてとうとう王子さまの軍は、わるい竜をやっつけて、国を守ることにせいこうしたのです。
わるい竜をやっつけたあと、王子さまはみんなのまえで、なみだをぽろぽろ流しながらこう言いました。
「ありがとう。ほんとうにありがとう。
ぼくがここまでこれたのは、すべてきみたちのおかげだ。
なんの力もないぼくは、きみたちがいなければ何一つできなかったんだ。
ありがとう。ほんとうにありがとう。」
うれしくてうれしくて、ぽろぽろとなみだを流す王子さまに、ひとりの騎士が言いました。
「いいえ、王子さま。
だれよりもつよい力が、あなたにはあったのです。
あなたには、人を導く力がありました。
その力でわたしたちを導いてくれたからこそ、わたしたちはここにつどい、あなたの力になれたのです。
王子さま、あなたはわたしたちをみちびく星なのです。」
ひとりの騎士の言葉に、そこにいたみんながうなづきました。
そこで王子さまは、はじめて自分の力に気がついたのです。
またなみだをぽろぽろこぼした王子さまは、北の空をゆびさして、こう言いました。
「それならぼくは、ほんものの星になろう。
ぼくがいずれ死んでも、星になれば夜空でずっとかがやいて、いつまでもみんなを導くことができる。
だれかがまよったとき、その光でてらしてあげることができる。
だからぼくは、星になろう。」
「シュルク。僕は、君がこの世界に来てくれて、本当によかったと思っているんだ」
ルキナの部屋を出て暫く通路を歩いた後、僕の数歩先を歩いていたマルスが徐ろに話し始める。
「君があの未来を視なければ、いつか僕の国が滅ぶ時が来ても、僕の存在に勇気を貰える人が居る。僕の血だけじゃなくて、想いも受け継いでくれる人が居る。それがずっとわからないままだったはずだ。……だから君には、どれだけ感謝しても足りない」
マルスが窓の外に目をやる。
その当時は夕焼けなど見ている余裕もなかったが、昨日はとても綺麗な夕焼けが差していただけあって、今日は朝からとても綺麗に晴れていた。
そんな青空を見上げるマルスの後ろ姿は、やはり僕が視た未来に居た初代イーリス聖王の姿によく似ている。
「……僕も、マルスには感謝してる。君が居なければ、モナドの可能性に気付くことも無かった」
「君の剣の、可能性?」
「僕には、危険な未来しか視えないって思ってた。誰かが死ぬとか、誰かが酷く傷付くとか、この剣はそんな未来しか僕に視せてくれないんだって、ずっとそう思っていたんだ。だから僕は未来を変えようと、必死に足掻き続けていた」
目を閉じて、僕が視た未来の中に居た、初代聖王の姿を思い出す。
城も旗も燃え上がり、瓦礫の中で星空を見上げる初代聖王。モナドがそれを見せた以上、あれは確かに酷い未来なのかもしれない。少なくともあの未来のせいで、マルスが守った国は大陸から消えてしまう。
だがあの未来は、それだけではない。あれはどんな絶望の中でも生き続けて、いつか全てを守って見せるのだと。国を失った時にそう誓ったマルスの願いや想いを、誰かが引き継いだ未来でもある。
「でもそうじゃない。危険な未来だけじゃなくて、誰かに希望を与えるような未来も、視ることが出来た。勿論危険な未来に変わりはないから、変えられるなら変えた方がいいのかもしれない」
「もう僕は、そんなこと望んでいないよ」
「わかってる。あの未来は変えないし、変わらない。……それでも、確かにマルス達はあの未来から希望を貰った。マルスの勇気を受け継いで、ルキナ達まで引き継がれていく光景を僕は視て、三人に伝えることが出来た。それが嬉しいんだ」
あの未来は、マルスの想いが、ルキナ達の時代まで受け継がれていった証の未来でもあるのだ。
モナドの視せる未来で僕はマルスの未来と、ルキナ達の過去を繋ぐことが出来た。僕はその未来を変えなくても、誰かに希望を与えることが出来たのだ。
「……そうだね。本当にありがとう、シュルク」
くるりと、マルスが踵を返してこちらを向く。
その顔は、いつになく晴れやかだった。
「昨日の僕は、君達に酷いことを言ってしまった。それをどうか許してほしいんだ。それと、君さえよければ……」
マルスが、その右手を僕に向かって差し出す。
僕が初めてこの世界にやってきた日を思い出した。確かその日もマルスは、こうして僕に握手を求めてきた。
その日からまだ一月も経っていないはずなのに、不思議なことにそれがずっとずっと前のことのように思える。きっとここに来てからの毎日が、あまりにも充実しているからに違いない。これからも、今までのようにそんな充実した日々が待っているはずだ。
勿論いいことばかりじゃないかもしれない。昨日のように誰かを傷付け、誰かに傷つけられる時もあるかもしれない。それでも僕は、きっと上手くやれると信じよう。
「これからも僕と、仲良くしてくれるかい?」
「そんなの、決まってるだろ」
差し出されたその手を取り、マルスと握手を交わす。
僕達が、初めて会った時のように。
「これからもよろしく、マルス」
「こちらこそ、よろしく」
こうして月日は流れ、死んだ王子さまの命は、やがて本当に星になりました。
北の夜空で王子さまの星は、いつも同じところで、ずっとかがやきつづけています。
王子さまの星をたよりにすれば、くらいくらい夜でもまよわずに歩けるのだと、みんながよろこびました。
その声をきいた王子さまもよろこんで、星のかがやきはもっとつよくなりました。
たくさんの花が咲いて鳥がうたう春の日も、
みずうみの水がキラキラかがやく夏の日も、
くだものの実りに人々がよろこぶ秋の日も
まっしろな雪がすべてをおおった冬の日も
だれかがまよい、なみだを流したその時も、
北の夜空を見あげれば、いつでも王子さまの星がかがやいているのです。
だれかを導き、その光でてらしてあげようと、
いつまでも、いつまでも、
北の夜空で、かがやいているのです。
いつまでも、いつまでも。
王子さまはやさしい家族にかこまれ、大きなお城でくらしながら、よい王さまになるためのおべんきょうをずっとしていました。
しかしあるとき、わるい竜が王子さまの城をこわし、王子さまは国をうばわれてしまいました。
わずかな騎士といっしょにどうにか国をにげだした王子さまは、家族ともわかれてしまいました。
だいすきな家族が生きているのかどうかさえ、王子さまにはわかりません。
国をにげだしたその夜、かなしくてかなしくて、王子さまはぼろぼろなみだを流しました。
それでも、王子さまは星空にちかったのです。
いつかかならず、国をとりもどしてみせようと。
王子さまは、国をとりもどすための戦いをはじめました。
しかし王子さまの軍には、いっしょに国からにげた数人の騎士しかいません。
それでも王子さまはあきらめずに戦いつづけました。
そのあきらめない王子さまの姿にひきつけられるようにして、さまざまな兵士が、そして敵だった兵士までもが、王子さまのところにあつまってきました。
そうしてひとり、またひとりと、王子さまの軍に兵隊があつまってゆきます。
「もう、お二人ともずるいですよ! これじゃあ私だけ置いてけぼりにされたみたいじゃないですか!」
私だって英雄王のことを探していたんですから。そう言って、むくれたルキナがそっぽをむいてしまう。
一体どうしたものかと、僕が助けを求めるように隣に立つルフレの方をちらと見ると、本気で怒っているわけじゃないから気にしなくていいよ、とそっと耳打ちされる。
昨日の夜に僕とマルスとルフレの間にあんなことがあった、とルキナが知ってからというものの、ルキナはずっとこんな調子だ。
三人だけで解決させてしまうなんてずるい。私だって英雄王と一緒に星空を見たかった。そんなことを言って、ずっとむくれてばかりいる。言われてみればあれでは確かにルキナを仲間外れにしてしまったみたいで、何だかこちらとしても申し訳なくなってくる。
「ルキナ、それくらいにしてあげてくれないか」
「英雄王……」
僕がルキナの部屋に招かれた時から、ずっと椅子に座って小さな本を読んでいたマルスが、困ったように笑いながら顔を上げる。
「君にも心配をかけて本当にすまなかった。だが元はと言えば全て僕のせいだから、君さえよければ……二人だけは許してあげてほしいんだ」
「……わかり、ました」
「ありがとう、ルキナ」
穏やかに微笑んだマルスが、膝の上に置いたままの本を閉じた。どうやら先ほどからずっとマルスが読んでいたのは、子供向けの絵本だったようだ。
「マルス、その本は?」
「これかい? ルキナが見せてくれたんだ。彼女が僕と同じ服を身に纏う理由が、この本の中にあると」
その本の表紙絵を、とても愛おしそうにマルスが撫でる。
確かにそこに描かれた、青い服に青い髪の男の子の絵は、マルスとルキナに似ているような気がする。似ているも何も、その男の子はマルスを元にして描かれているはずなので、それが当たり前のはずなのだが。
「あれは私達の時代でよく読まれている、英雄王の伝説を描いた子供向けの絵本ですよ。私も幼い頃、お父様にあれを読んで頂きました。……あれから私も考えたのです。英雄王の御心を救うために、自分に何が出来るのか」
「そう考えた君がマルスに見せようと思ったのが、あの本ってこと?」
「ええ。幼い頃の私はあの本を読んで、英雄王のように、道に迷う誰かを導ける存在になりたいと思いました。それから数十年経ち、絶望の未来で必死に足掻く私はあの本を思い出し、英雄王のように……貴方のようになりたいと、貴方と同じ服を身に纏うようになりました」
ルキナが椅子に座ったマルスの前に跪いて、、マルスの手を取って、こう言った。
「英雄王、私達は貴方の国を守れませんでした。……ですが貴方という存在がいつまでも、人々の救いでいられるようにすることは出来るはずです。それが、貴方が守った未来に生き、貴方の血を引く私の務め。そう、思っています」
ルキナに手を握られたまま、何か物思いにふけるように、マルスがそっと目を閉じる。
その閉じられた目から涙が一粒零れるまで、それほど時間はかからなかった。
「……ルキナ」
膝の上の本をテーブルに置き、マルスもルキナに目線を合わせるように、椅子から立って床に膝をつく。
「ありがとう」
そのまま、マルスはルキナを優しく抱き寄せる。
いきなり抱き寄せられたことでルキナは少々驚いているようだったが、すぐに安心しきった表情に変わり、マルスの背中に手を回す。
その光景に、思わず笑みが零れる。隣に立つルフレの表情を見ると、ルフレもそれを見て微笑んでいるようだった。
「僕も頑張らないといけないね。僕がいつか星になるその時まで、自分に出来ることは全てやっておかないといけない。……君達の時代で輝く僕の星に、ふさわしい活躍を残せるように」
「お互い、頑張ろうね。ルキナ」
「……はい」
あつまった兵隊たちにより、やがて王子さまの軍は、とても大きな軍になりました。
そしてとうとう王子さまの軍は、わるい竜をやっつけて、国を守ることにせいこうしたのです。
わるい竜をやっつけたあと、王子さまはみんなのまえで、なみだをぽろぽろ流しながらこう言いました。
「ありがとう。ほんとうにありがとう。
ぼくがここまでこれたのは、すべてきみたちのおかげだ。
なんの力もないぼくは、きみたちがいなければ何一つできなかったんだ。
ありがとう。ほんとうにありがとう。」
うれしくてうれしくて、ぽろぽろとなみだを流す王子さまに、ひとりの騎士が言いました。
「いいえ、王子さま。
だれよりもつよい力が、あなたにはあったのです。
あなたには、人を導く力がありました。
その力でわたしたちを導いてくれたからこそ、わたしたちはここにつどい、あなたの力になれたのです。
王子さま、あなたはわたしたちをみちびく星なのです。」
ひとりの騎士の言葉に、そこにいたみんながうなづきました。
そこで王子さまは、はじめて自分の力に気がついたのです。
またなみだをぽろぽろこぼした王子さまは、北の空をゆびさして、こう言いました。
「それならぼくは、ほんものの星になろう。
ぼくがいずれ死んでも、星になれば夜空でずっとかがやいて、いつまでもみんなを導くことができる。
だれかがまよったとき、その光でてらしてあげることができる。
だからぼくは、星になろう。」
「シュルク。僕は、君がこの世界に来てくれて、本当によかったと思っているんだ」
ルキナの部屋を出て暫く通路を歩いた後、僕の数歩先を歩いていたマルスが徐ろに話し始める。
「君があの未来を視なければ、いつか僕の国が滅ぶ時が来ても、僕の存在に勇気を貰える人が居る。僕の血だけじゃなくて、想いも受け継いでくれる人が居る。それがずっとわからないままだったはずだ。……だから君には、どれだけ感謝しても足りない」
マルスが窓の外に目をやる。
その当時は夕焼けなど見ている余裕もなかったが、昨日はとても綺麗な夕焼けが差していただけあって、今日は朝からとても綺麗に晴れていた。
そんな青空を見上げるマルスの後ろ姿は、やはり僕が視た未来に居た初代イーリス聖王の姿によく似ている。
「……僕も、マルスには感謝してる。君が居なければ、モナドの可能性に気付くことも無かった」
「君の剣の、可能性?」
「僕には、危険な未来しか視えないって思ってた。誰かが死ぬとか、誰かが酷く傷付くとか、この剣はそんな未来しか僕に視せてくれないんだって、ずっとそう思っていたんだ。だから僕は未来を変えようと、必死に足掻き続けていた」
目を閉じて、僕が視た未来の中に居た、初代聖王の姿を思い出す。
城も旗も燃え上がり、瓦礫の中で星空を見上げる初代聖王。モナドがそれを見せた以上、あれは確かに酷い未来なのかもしれない。少なくともあの未来のせいで、マルスが守った国は大陸から消えてしまう。
だがあの未来は、それだけではない。あれはどんな絶望の中でも生き続けて、いつか全てを守って見せるのだと。国を失った時にそう誓ったマルスの願いや想いを、誰かが引き継いだ未来でもある。
「でもそうじゃない。危険な未来だけじゃなくて、誰かに希望を与えるような未来も、視ることが出来た。勿論危険な未来に変わりはないから、変えられるなら変えた方がいいのかもしれない」
「もう僕は、そんなこと望んでいないよ」
「わかってる。あの未来は変えないし、変わらない。……それでも、確かにマルス達はあの未来から希望を貰った。マルスの勇気を受け継いで、ルキナ達まで引き継がれていく光景を僕は視て、三人に伝えることが出来た。それが嬉しいんだ」
あの未来は、マルスの想いが、ルキナ達の時代まで受け継がれていった証の未来でもあるのだ。
モナドの視せる未来で僕はマルスの未来と、ルキナ達の過去を繋ぐことが出来た。僕はその未来を変えなくても、誰かに希望を与えることが出来たのだ。
「……そうだね。本当にありがとう、シュルク」
くるりと、マルスが踵を返してこちらを向く。
その顔は、いつになく晴れやかだった。
「昨日の僕は、君達に酷いことを言ってしまった。それをどうか許してほしいんだ。それと、君さえよければ……」
マルスが、その右手を僕に向かって差し出す。
僕が初めてこの世界にやってきた日を思い出した。確かその日もマルスは、こうして僕に握手を求めてきた。
その日からまだ一月も経っていないはずなのに、不思議なことにそれがずっとずっと前のことのように思える。きっとここに来てからの毎日が、あまりにも充実しているからに違いない。これからも、今までのようにそんな充実した日々が待っているはずだ。
勿論いいことばかりじゃないかもしれない。昨日のように誰かを傷付け、誰かに傷つけられる時もあるかもしれない。それでも僕は、きっと上手くやれると信じよう。
「これからも僕と、仲良くしてくれるかい?」
「そんなの、決まってるだろ」
差し出されたその手を取り、マルスと握手を交わす。
僕達が、初めて会った時のように。
「これからもよろしく、マルス」
「こちらこそ、よろしく」
こうして月日は流れ、死んだ王子さまの命は、やがて本当に星になりました。
北の夜空で王子さまの星は、いつも同じところで、ずっとかがやきつづけています。
王子さまの星をたよりにすれば、くらいくらい夜でもまよわずに歩けるのだと、みんながよろこびました。
その声をきいた王子さまもよろこんで、星のかがやきはもっとつよくなりました。
たくさんの花が咲いて鳥がうたう春の日も、
みずうみの水がキラキラかがやく夏の日も、
くだものの実りに人々がよろこぶ秋の日も
まっしろな雪がすべてをおおった冬の日も
だれかがまよい、なみだを流したその時も、
北の夜空を見あげれば、いつでも王子さまの星がかがやいているのです。
だれかを導き、その光でてらしてあげようと、
いつまでも、いつまでも、
北の夜空で、かがやいているのです。
いつまでも、いつまでも。
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